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田川簡易裁判所 昭和36年(る)71号 判決

被疑者 坂本安夫

決  定

(被疑者、請求人氏名略)

右被疑者に対する道路運送法違反被疑事件について、右請求人から勾留理由開示の請求があつたので、つぎのとおり決定する。

主文

本件請求を却下する。

理由

請求人から提出した本件勾留理由開示請求書添付の証明書記載から見ると、請求人は被疑者との間に刑事訴訟法第八二条第二項に掲記する被告人の「弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹」でないことは明らかである、従つて請求人は同条同項の「利害関係人」として本請求をしたものであると認められる。

そこで請求人が右の「利害関係人」に該当するかどうかについて判断する。

勾留理由開示の制度は、憲法第三四条後段の規定にもとづくものであり、これを受けた刑事訴訟法第八二条、刑事訴訟規則第八一条の規定により請求されねばならない。従つてこれらの法意から推して考えると、右の「利害関係人」とは、被告人又は被疑者と近親的な身分関係又はこれに類する関係に在り、且つこれらの者が被告人又は被疑者が勾留されることにより直接且つ具体的な利害関係に在る場合を指称すると解するを相当とし、広く単に友人知己又は同業者というような、社会的身分関係ないし公訴(被疑)事実に対する関係などにおいて、直接間接に利害関係のある者までも含むものとは解せられない。本件請求書添付の証明書によると請求人は福岡県タクシー運転者共済組合の理事長であり、被疑者はその組合員であるというのであるから、両者の間に社会的身分関係は認められないではないが、それのみで両者間に前示の直接且つ具体的な利害関係があるとは認め難い。

以上説示のとおり本件請求人は前示条項の利害関係人に該当しないので、同人からなされた本件勾留理由開示請求は不適法といわざるを得ない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 吉松卯博)

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